2006年03月20日

変装-私は3年間老人だった

早く布団に入ったわけではないのに、なにかもの足りず、こんな夜を充実させてくれるものを求めて本棚から一冊の本を手に取った。

『変装-私は3年間老人だった』著者 パット・ムーア

昨年のいつだったか、私の大好きな日経ビジネスの、書評欄にこの本が紹介されていて、面白そうだな、と気に留めた。
それからほどなくして、なんと古本屋でこの本と再会し(古本屋は、ぶらっと本を探すには良い場所だが、目的の本を探すのは至難の業である)、運命に違いないと購入しておいたのだ。

これは、26歳の工業デザイナーが、老人にとって使いやすいデザインを追求して、自ら85歳のおばあさんに扮装し、3年間アメリカ中に出没した記録である。

彼女は、実際に老人として若者に扱われ、老人として老人と友達になり、あやうくロマンスまで生まれそうになったり、当時まだ荒れていたハーレムでは文字通り命を落としそうにまでなる。

そうして老人の感じるとおりに自分も感じ、老人の人生を生きる......毎週末。

もちろん二重の生活は彼女の心を引き裂き、あるとき突然ひどい疲労で病院へ運ばれ、そのまま入院。だけど彼女は退院してからも今までと同じように変装して街をさまよい続けた(^^;)

ううむ。すごい。すごいぞ。

誰か他の人になってみたいとゆー願望や必要性は、多かれ少なかれ誰しも一度は経験していると思うが、それを現実の世界で試してみるなんて......

俳優だって。老人を演じる俳優だって、老人ホームを訪問してみたり、身近な老人を観察したり、果ては舞台の上で老人を演じたりするのだけれど、私生活で老人に扮して生活してみるなんて話は聞かない。

だって......だって......なんでだろう??

少なくとも、とても怖い経験だと私は思う。
だって見破られたら相手を傷つけるとてつもない嘘をついているんだもの。

しかも、相手といる間ずっと、自分が「老人」でいられる自信なんてない。

パティ・ムーアさんは女優でも何でもありません(^^;)。ただ、大学院で老人学を学び直した工業デザイナー。それが、メイクアップアーティストと出会って、大胆な調査に飛び込み、のめりこむ。

誰一人として、老人も、大人も、子どもも、学者も、店員も、ホテルマンも、彼女の変装を見破ったひとはいなかった。

そして分かったことはいろいろある。
・老人の話は暗くない
・全く同じ振る舞いをしても、老人と若者では扱われ方が違う
(老人のパットに不愉快な対応をした書店の店員に、翌日26歳の女性としてもう一度同じことをやりに行くエピソードは快感!)
・老人は、自分で自分を無用な役立たずの哀しい存在だと認めている節がある
・老人同士の間には、優しく温かいコミュニティと助け合いの精神がある
(パティ自身が離婚したとき、そっと側に来て話を聞いてあげるおばあさんのエピソードが際立って心に残る)
・特に老人が身近にいる子どもには、老人に対する偏見がないことが多い
・貧乏な老人よりお金持ちの老人の方が親切にしてもらえる
などなど......

私の亡くなった祖父は、怪我をして介護が必要になったときでも、老人ホームへの入居を頑に拒んだ。なんでも、見学に行ったときに老人たちがやらされていた「お遊戯」に耐えられないものを感じたらしい。

.....尤もな話だ。

私だって、何十年も生きて年老いて、バカとしか思えない女の子たちに赤ちゃん言葉で話しかけられながらふがいない思いをするのは嫌だ。幼稚園児と変わらない日課で日々を暮らすのは嫌だ。

こっちは大人なのに!!人生を生きて、考えて、あんたたちよりもっとずっと長くを歩いて来た、ちゃんとした人間なのに!

そうじゃない???

(しかしどうして老人に赤ちゃん言葉で話しかけるんだろう?あれって不思議だよね)


しかし若者に対する老人について、疑問に思ったこともある(^^)

・どうして老人は、若者に対しては嫌みで愚痴っぽく、暗い話や自慢話をしたがるんだろう??

明るく楽しい話をいつもしてくれれば、若者たちにも愛されると思うんだけどな?
陽気で、はつらつとしていて、いつも会うたび元気にさせられるような、幸福なお年寄りに.....なって欲しいしなりたいものだ(^^)

しかしどうしてそうなれないお年寄りが多いのかは.....自分が年を取ると分かるようになったりするんだろうか(^^;)

「老人になる」ということがどんな現実なのか疑似体験できる本です。そして自分が「老人になる」ときにそれをどんな現実にしたいか、そのために今なにができるかを考えさせる本です。

今は、ムーアさん自身のように肉体的に感じられはしなくても(^^;)、全ての人が生きている限り老いるのだものね。

身近にお年寄りがいて、そのひとのために不快な思いをしていたり、分かり合えない気がする方には、特におススメの本です。

関連する記事へのリンク(別ウィンドウで開きます)
『変装-私は3年間老人だった』
■「ユニバーサルデザイン」がキーワードのキッチン・家電製品
All About 介護・福祉関連の仕事



hashmash2001 at 23:12 │Comments(2)TrackBack(0)この記事をクリップ!詩、文章、本系 

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この記事へのコメント

1. Posted by なぐね。    2006年03月23日 21:06
面白そうな本だねぇ。

年をとると世代的にコミュニケーションをとることが難しくなるというのはあるんでしょうね。肉体としての機能が衰えるというのもあるでしょうし。

ここからは、勝手な自分の考えですけれど、人間、年をとるほど、人間(というよりは人格か)として成長・完成されていくという幻想がどこかあるんじゃないかな。

もちろん、経験が知恵を生み、知恵が徳を授けるというのは、ある程度なくてはならないとは思うけど、神様の視点に立てば人間というプラットフォームに、老いも若きもそれほど違いはあるのだろうかと。

「年甲斐もなく」という言葉があるけれど、それに代表される価値観で、お年寄りのあるべし姿を勝手に押しつけては、それでもってジャッジしている人って結構多いような気がする。

そういう期待というか、幻想をとっぱらことができれば、もうちょっとお互い楽なのにと思うけどね。
2. Posted by ハシモト ユウコ    2006年03月23日 21:20
5 なぐねさま
コメントありがとう!
あっという間に読んじゃったよ(^^)

しかし面白いね、なぐねさんの意見は.....
私としては「老いては子に従え」とか「子どもに返る」とか、そーゆー視点が原因なのか??と思ったりもする。

でも確かに相反する二つのイメージを押し付けられてるよね、老人は.....。

そうそう、パティさんによると、老人になると「無視される」らしいよ。そのためにどこへ行っても孤独らしい。

うーん。淋しいなぁ。
......せめて素敵な老人になりたいなぁ.....

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